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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)539号 判決 1982年12月02日

上告人

吉田正英

右訴訟代理人

前原仁幸

京兼幸子

被上告人

松井光明

被上告人

黒川忠男

被上告人

黒川勝子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人前原仁幸、同京兼幸子の上告理由第一点ないし第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第五点について

上告人は原審において原判示(1)の土地と同(2)の土地の境界の確定を求める旨の中間確認の訴えを提起したが、境界の確定は、係争土地部分の所有権の確認と異なり、土地所有権に基づく土地明渡訴訟の先決関係に立つ法律関係にあたるものと解することはできないから、本件中間確認の訴えは、不適法として却下すべきものである。これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を論難するか、又は判決に影響のない点をとらえて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝 和田誠一)

上告代理人前原仁幸、同京兼幸子の上告理由

第一点〜第四点<省略>

第五点 原判決は左記の点に民事訴訟法第三七八条、第二三四条の法律解釈を誤まりたる違法が存する。

一、原判決は、「土地境界確定の訴えは土地所有権確認の訴えとは異なり、当該土地明渡訴訟の先決事項たる法律関係確認を求める訴えにはあたらないと解するのが相当である」。とし、上告人が原審において提起した土地境界確定の訴えは中間確認の訴えの要件を欠き、不適法であるとして却下した。

二、しかし、本件においては境界確定は先決事項である。上告人は(1)の土地所有権に基いて被上告人らに対し、本件建物収去土地明渡ならびに建物退去土地明渡を求めているのであるから、上告人は、上告人が本件土地の所有者であることを主張・立証しなければならない。上告人は本件土地はもと(2)の土地に含まれ、それを時効取得したと主張しているのではなく、本件土地は(1)の土地に含まれると主張した。これに対し、被上告人らは、(1)と(2)の土地の境界そのものを争い(2)の土地に含まれると主張した。したがつて被上告人が自己の土地所有を立証するためには、土地の占有状態ではなく、土地の境界を主張・立証することが必要不可欠となる。

ところで隣接地間の境界は、各地番の範囲を画するものとして、本来国家がその行政作用によつて定めた公法上のものであり、客観的に定まつているものである。(1)の土地は全く分筆されることなく今日に至つており、明治六年の地価台帳制施行当時のものがそのままとなつており、(1)の土地と(2)の土地の境界は当初のそれと一致し、(1)の土地所有権の東限と(2)の土地所有権の西限は一方の土地が他方の土地を時効取得することのない限り、(1)の土地と(2)の土地境界線と一致する。

すなわち、紛争の実態を直視すれば(1)の土地と(2)の土地の境界争いであるとともに、各所有者である上告人と被上告人勝子との所有権の範囲の争いであり、所有権の範囲の争いが境界線がどこかという争いの形で現象化しており、所有権の範囲確定をはなしては、この紛争の実態はつかめず、係争の解決には何らかの形で境界の確定を必要とし、境界確定がその判断の前提問題となる。それゆえ、第一審判決はその理由中において、「そこで、本件土地が(1)の土地に含まれるか否かについて判断する。結論から述べれば、本件土地が(1)の土地に含まれること又は原告の所有であることのいずれも認めるに足る証拠はない。」と判断したのであり、原判決も右第一審判決をそのまま支持している。

なお、(1)と(2)の土地の境界線の中でもその南側部分については、厳密にいえば、本件土地所有権の帰属をめぐる争いとは無関係であるが、本件土地が(1)の土地もしくは(2)の土地に含まれるかについて、(1)と(2)の土地の境界線全体如何が問題となつて、当事者間において争われ、審理が進められた以上、(1)と(2)の土地の境界は全体として前提問題となると解すべきである。

本件土地の帰属をめぐる限度でのみ、(1)と(2)の土地の北側部分の境界が前提問題となると解した場合、境界線の一部すなわち北側部分のみ確定すべきである。

三、上告人は、「客観的に存する両地の経界線を判決をもつて確認する」ために境界確定の訴えを提起したのであつて、法律関係の確認を求める訴えにあたる。大審院第一民事部大正九年七月六日判決(民録二六輯九五九頁)「経界確定ノ訴ナルモノハ両隣地間ノ経界ノ不明ナルカ又ハ経界ニ付キ争アル場合ニ於テ両隣地間ノ経界ヲ定ムル判決ヲ求ムル訴ナルモ、我国法上ノ解釈上原裁判所ノ解スルカ如ク創設的判決ニアラスシテ宣言的判決ニ過キサルコトハ従来本院判例ノ示ストコロナリ(大正三年(オ)第二九五号大正四年五月十五日判決参照)。即チ経界訴訟ノ場合ニ於テモ判決ニ因リ権利ノ発生変更又ハ消滅ノ効力ヲ生スルモノニアラス既ニ客観的ニ定マリタル両隣地間ノ経界ヲ判決ヲ以テ宣言スルニ過キサルモノトス。」

四、なお、中間確認の訴えの提起時期について原判決は「のみならず、右訴えは、本件においては係属中の本件建物収去退去土地明渡等の訴訟が既に終結している段階において提起されたのであつて、右の訴えの審理のため更に証拠調べを要し、右訴えの追加は本件訴訟手続を著しく遅滞させるものであるから、かかる段階での中間確認の訴えの追加は許されない。」と判示した。

五、しかし、中間確認の訴えは、当事者間に訴訟が係属し、かつ、事実審の口頭弁論終結前であることがその要件である。口頭弁論終結直前でもよい。先決問題については争いがあるかぎり、主要な争点として審理がおこなわれているからである(同旨新堂幸司「民事訴訟法」四六八頁)。

本件において、本件土地が(1)の土地に含まれることについて上告人の主張は終始かわることはなく、第一審第一四回口頭弁論における「被告(被上告人)は、本件係争部分の地番を明らかにされたい」との裁判官の釈明に対し被上告人らは「本件係争分は……大阪市東住吉区平野元町四丁目一番地の一、宅地30.206坪の一部である。」と答弁し、終始一貫してその境界を争つてきた。

上告人は、(1)の土地と(2)の土地の境界を明らかにしひいては(1)の土地の範囲を立証するため、原審において(2)の土地の前所有者中川末雄・鑑定人真鍋准の証人申請及び鑑定の申立をしたが原審はこれらの証拠を取調べることなく弁論を終結した。

そして、原審はその理由中で「本件土地が(1)の土地に含まれること又は原告(上告人)の所有であることのいずれも認めるに足りる証拠はない。……(中略) (1)の土地と(2)の土地の境界線は被告(被上告人)らの主張の境界線に近い線であるものと認められ、少くとも本件土地は原告(上告人)の所有に属さず、(2)の土地の範囲に包含されるものと認められる。」と判示した第一審判決をそのまま引用し、土地の境界について判示している。

前述の如く、上告人が本件土地を所有していること即ち本件土地が(1)の土地に含まれるか否かを判断するには土地の境界がその前提として必要不可欠のものである以上、本件中間確認の訴の審理のため更に証拠調べを要するというのであれば、原審は訴訟が終結に熟していないにもかかわらず弁論を終結させたものである。

又、今後上告人と被上告人の争いを根絶するためにも境界の確定は有益である。すなわち、「本件土地が(1)の土地に含まれること又は原告(上告人)の所有であることのいずれも認めるに足る証拠はない」という理由中の判断については既判力は生じないから本件紛争の根本的解決にはならず、今後、上告人は、客観的に存在する境界線に合致するまで建物収去土地明渡もしくは所有権確認の訴えを提起しなければならず、反対に被上告人勝子から本件土地は(2)の土地に含まれるとして、(1)の建物の越境部分の収去を求められるなどして紛争がむし返される。

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